懐かしい味

昨晩、久しぶりにハムかつを食べた。
ハムを揚げただけのとてもシンプルなものなのに、
どうしてこんなにおいしいんだろう…と思った。
幼い頃、父は時々近所の肉屋さんのハムかつを買ってきてくれた。
「父が買ってきてくれる」というのは日常的なことではなく、
「時々」のことであるという特別感も手伝って、
夕飯のおかずの一つとしてそのハムかつが並んだときは、とても嬉しいものだった。
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幼い頃見ていたアニメに「ポリアンナ」というのがある。
その話の流れや、どういう話だったのかは詳しくは覚えていないのだけれど、
ポリアンナという主人公の少女の笑顔とともに、
とても印象深く残っているエピソードが二つある。
一つ目は「いいことさがし」。
このような言葉が出てきていたということは、おそらくポリアンナを取り巻く状況は、
いわゆる「幸福」なものではなかったのだろうと想像されるが、
「何かいいことというのは必ずある。毎日一つでいいから、いいことを探しなさい。」
という父の言葉から、ポリアンナが「いいことさがし」をする、というものだ。
そしてもう一つが、「ハム」にまつわるエピソード。
ポリアンナには、週に一度だけハムエッグを食べられる日というのがあった。
当時アニメで描かれたハムエッグがとても美味しそうだったのか、
あるいは「週に一度だけのハムエッグ」というその特別感に
どきどきさせるものがあったのか、今となってははっきりとはわからないけれど、
今でもハムを食べるときに時々このエピソードが思い出されるほど、このエピソードは
色鮮やかに心に刻まれている。
今やハムが高級なものだ、という意識はあまりないかもしれないが、
ポリアンナの世界では、ハムはとても贅沢品だったのだ。
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こういうようなことを思い出しながらハムかつを食べていると、
ハムかつも、かつての日本ではきっと贅沢品だったのだろうなと思う。
何気ない食べ物だけれど、今でもわたしにとってどこか特別感のあるハムかつ。
きっとわたしの父も、ハムかつが好きだったのだろうと、
今になって思う。