最後の手縫い

バッグ作りのプロセスのなかで最も好きな瞬間は、
もしかすると最後の手縫いのときかもしれない。
複数の生地を組み合わせながら、バッグのアイデアを練るのも、
水通しした生地にアイロンをあて、型を切り出すのも、
全体の大きな形を作っていったり、際を縫いあげてぴしと仕上げたり…というように
ミシンを使ってぎりぎりの感覚で縫っていくのも、
それぞれにとても好きなのだけれど、
手縫いは手縫いで、独特の魅力がある。
ミシンよりはゆったりとしたペースで、手で直接縫うという意味でより身体的な作業で、
たんたんと、特に何を考えるわけでもなくひと針ひと針進めていくのには、
どこか瞑想的な感じもある。
出来上がりの一歩手前ということもあって、
これで一つの形になる、という喜びや、
どんな人が使ってくれるのだろう…というような想いがあり、
そしてまた、純粋に生地の質感や風合いを味わったり、
バッグが実際に使われている風景を想像したりして、楽しんでいる。
よく考えると、このバッグたちは、わたしの手を離れてから、
いろいろな人のもとで生き始めるのだな、と思う。
もしかすると、その人たちの生活の中に入って初めて出てくる「表情」というのも、
それぞれのバッグにあるかもしれない。
バッグを実際に使ってくれる人がいて、実際に使われて、
そしてそのことのなかで、そのバッグが一番魅力的であるような、
そんなバッグを作りたい。
最後の手縫いをしながら、
ぼんやりと、
いろいろのことを想う時間。