中村えい子さんの作品のこと

哲学の道にあるギャラリー花いろさんで、中村えい子さんの「手織りArt〜おしゃべりな糸たち〜という個展が今日まで開催されているというので、お散歩がてら見に行ってきた。

コットンやシルク、ウールなど様々な種類、太さ、テクスチャの糸で織られた織物。どれも平坦ではなく、織物自体に凸凹とした起伏があったり、ぽこぽこと糸が飛び出しているところがあったり、編み目にも大きなところや小さなところがあったり…。

また、その色も単に「グラデーション」というには収まりきらない、様々な色の糸が複雑に織り込まれているものでとても表情豊かな織物だった。なんだか織物自体が生きて呼吸しているみたいな…。

ご本人もいらっしゃったのでいろいろとお話をうかがった。一番印象的だったのが、作るときには全体の「イメージ」はあるが、具体的にここをこうして…という「計画」のようなものはなく、だから当然下絵なども書かない、ということ。
ただ今日織る部分(小さな織り機の、これから織る部分)で、自分が、いいな〜と思うように、あるいは、ここはこうしてみようと思うままに織っていくのだ、と。そして、そのようにして毎日毎日織っていくと、その結果としてこういう作品ができる、というのだった。

これほどまでに複雑で豊かな世界が、実は全体としてあらかじめ計画されて作られたものではなく、今、目の前にある部分を、自分が「いいなー」と思うように織っていった、その一つの結果として最後になって初めて現れたものなのだ、ということをとても興味深く思った。

自分があらかじめ決めた通りに(すべてを自分でコントロールして)作られた作品ではなく、全体としてどうなるか自分でもわからない、というところを含んでいる。動きのある、そしてどこか呼吸する音が聞こえてきそうな作品…。

織物は経糸と緯糸があって、それらを交錯させて織り上げていく。その中で経糸はあらかじめ決められているもの。それにどう緯糸を入れていくかによって織物に表情が出てくる。

経糸は決められているものだけれど、緯糸の入れ具合や、経糸それ自体を左右にずらしたりして糸の密度を場所によって変えることで、実は経糸だって変化させられるのだ、とおっしゃっていたことが印象的だった。